『港詭實錄ParanormalHK』が「#香港独立遊戯」を指摘されて修正ー政治的な意図は無しと表明【香港産ホラーゲーム】
香港の九龍城砦を舞台にした一人称視点のホラーアドベンチャーゲーム『港詭實錄 ParanormalHK』。
香港のインディーデベロッパーであるGhostpie Studioが開発し、同社とGamera Gameによって1月6日にSteamで配信されました。PS4での配信も予定されているとのことです。
中国では「インディーゲーム」のことを「独立遊戯」と言います。
公式Facebookの投稿のハッシュタグで「香港インディーゲーム」、つまり「#香港独立遊戯」と書いたことが問題になりました。
今回はこの件についてと、香港の情勢やセンシティブにならざるを得ない前例、『港詭實錄 ParanormalHK』がどのようなゲームなのかをお届けします。
改題とハッシュタグの変更
本作のもともとの題名は『牛一』でした。広東語のスラングで「誕生日」を意味します(牛の下に一を付けると「生」)。英語の題名は『-Birthday- Kowloon’s Secrets』です。
それを『港詭實錄』に改題したことを公式Facebookで投稿し、固定投稿(ページの一番上に表示される投稿)にしました。
FacebookはTwitterとおなじように、関連のあるトピックにハッシュタグ「#」を付けることができます。
そこで「香港インディーゲーム」という意味で「#香港独立遊戯」と付けました。
しかし見る人によっては、「香港独立のゲーム」という意味にもとらえられてしまいます。
たしかにそうなのですが、今の中国と香港の情勢を考えると、注意するに越したことはないでしょう。
フォロワーからの指摘を受けたようで、現在は「#香港遊戯」に修正されています。また政治的な意図がないことも表明しています。
さらに「#本土」というハッシュタグも追加されています。「中国本土」という意味で、「香港は中国」ということを表明し、独立を意味していないことを強調したと思われます。
それぐらいセンシティブになっているということです。
ただこの投稿以前の投稿に関しては、「#香港独立遊戯」のままになっています。そもそも書いた本人もそのような勘違いをされるとは思いもしなかったのでしょう。
センシティブな香港情勢
センシティブにならざるを得ない香港の情勢ですが、2019年の「逃亡犯条例改正案」が発端となり、反政府デモが拡大したという経緯があります。
「逃亡犯条例改正案」は、簡単にいうと「香港の犯罪者を中国に引き渡すことができる」という法案です。中国に不都合な活動家などに対して、意図的に利用される可能性もあります。
このことから反対デモが拡大し、香港政府は撤回を表明。しかし収まらず、死者を出すほどの規模にまでデモが膨れ上がりました。
デモによる要求が、逃亡犯条例改正案の撤回だけに留まらなくなったのです。
「五大要求」と呼ばれるもので、政府がこれらを満たすことをデモ隊は求めています。以下の5つですね。
逃亡犯条例改正案の完全撤回:すべての発端。前述のとおり撤回されましたが、残りの4つを呑むことも求めているため、デモは収まりませんでした。
普通選挙の実現:香港での直接選挙の要求。
独立調査委員会の設置:いわゆる司法の独立。
逮捕されたデモ参加者の解放:逮捕者はすでに1000人を超えているといわれます。彼らを全員解放するよう要求しています。
「デモ=暴乱」認定の取り消し:今回のデモを暴乱活動と認定しないことを要求しています。
これを全部通すのは現実的には難しく、デモも今後長引くことになるでしょう。
中国としては香港はセンシティブな存在になってしまっているため、ちょっとしたことが理由で大事に至ってしまう可能性もあります。
配信中止にされた台湾産ゲームの前例
ハッシュタグの件については、小さな問題だとは思います。
ただ、政治的な意図を入れたことで配信中止になったゲームが存在します。
台湾産のホラーゲーム『還願』です。ゲーム自体の詳細については「Game*Spark」で記事を書いたのでそちらを参照してください。
ゲーム中では、中国の習近平国家主席を批判するような呪符が壁に貼られていました。これを受けて、Steamではゲームの配信が中止され、パブリッシャーのIndieventは営業停止処分を受けました。
このことがあったため、ゲーム自体の面白さとは関係のないところでケチがついてしまうのは、開発側として避けなければなりません。投じてきた時間と資金も無駄になってしまいます。『還願』という前例がある以上、フォロワーが心配するのも当然かと思われます。
今回の件も、面倒が起こる前に対処したのは良かったのではないかと思います。目的は政治ではなくてゲームを配信することなのです。
『港詭實錄 ParanormalHK』はどんなゲームなのか
本作は香港・九龍城砦を舞台にした一人称のホラーアドベンチャーゲームです。
九龍城砦とは香港の九龍城地区にあった巨大な集合住宅で、いわゆるスラム街のような場所です。違法建築によってどんどん建て増しされていき、巨大な集合住宅と化しました。
1993~1994年に取り壊しがおこなわれ、現在では「九龍寨城公園」という公園になっています。
主人公は心霊スポットを特集する番組のカメラマンで、美人キャスターのキャシーとともに九龍城砦内を探索します。そこで本当の心霊現象に遭うという内容です。
人気ホラーゲーム『青鬼』のように鬼役との追いかけっこもあり、謎解き要素もあります。
九龍城砦の雰囲気をよく表現したゲームなので、政治などの関係のないことが原因で配信停止になってしまうのはもったいないと言えるでしょう。
ゲームのプレイレポートについては「Game*Spark」で記事を書きました。近日中に公開されるかと思います。【追記】公開されました。
まとめ
近年、中国や台湾、香港など、中華圏のインディーゲームがSteamで影響力を増してきました。『太吾絵巻』など、中国語のみにもかかわらず100万本を突破したゲームもあります。
しかし中国は政治的な問題もあり、開発者はゲームの表現には慎重にならざるを得ないという実情があります。
今回のハッシュタグの件もそうですが、せっかく開発した政治と関係のないゲームが、ちょっとしたことで揚げ足を取られて配信中止に追い込まれるという事態は避けたほうがいいでしょう。
ただゲーム開発をすればいいだけでなく、ポリティカルチェックも必要な状況はたしかに大変ですね。
しかし優秀なインディーゲームも多数誕生してきていますので、今後の中華圏インディーゲーム業界の発展を期待したいと思います。
(筆者おすすめの九龍城砦写真集2冊)